「立体図形になると、急に問題が解けなくなる」
「体積や表面積の公式は覚えているのに、少し複雑な問題になると手が止まってしまう」
中学受験の算数を指導していると、このような悩みを持つお子さんは少なくありません。
立体図形が苦手だと、「空間認識能力がないのでは?」と思われるかもしれません。
しかし、最初から頭の中だけで立体を正確にイメージできる子ばかりではありません。
むしろ大切なのは、見えている立体を自分の手で図に表す経験を積むことです。
そのため、私は立体図形が苦手な子には、いきなり難しい問題をたくさん解かせるのではなく、
・そもそも自分で図を描く
・テキストに書き込まず、図をノートに描き写す
・正面からではなく、斜めから見た図を描く
・遠近感を意識して描く
という練習をおすすめしています。
今回は、なぜ「図を描くこと」が立体図形の克服につながるのか、その具体的な練習方法について解説します。
立体図形ができない原因は「公式を知らない」ことだけではない
立方体や直方体の体積であれば、「底面積×高さ」という公式を覚えれば、基本問題の多くは解けます。
ところが、中学受験になるとそれだけでは対応できません。
たとえば、「立方体をある平面で切断する」「容器を傾ける」「立体の一部分を切り取る」「複数の立体を組み合わせ」といった問題では、問題文に書かれている立体が実際にどのような形をしているのかを把握する必要があります。
ここで立体図形が得意な子と苦手な子の差が出ます。
得意な子は、問題文を読みながら、「ここが手前で、ここが奥だな」「この点とこの点を結ぶと、切り口はこうなりそうだ」と立体をイメージできます。
一方、苦手な子は、問題文に載っている図を眺めているだけになりがちです。
そこで必要になるのが、自分で図を描く練習です。
立体図形の対策① そもそも自分で図を描く
立体図形が苦手な子に、まず身につけてほしい習慣があります。
それは、「問題に図がなくても、自分で図を描く」ことです。
たとえば、「たて4cm、横6cm、高さ8cmの直方体があります」という問題だったとします。
計算だけで解ける問題であっても、最初のうちは直方体を描いて、
・たて4cm
・横6cm
・高さ8cm
と書き込んでみます。
これは一見すると遠回りです。
しかし、この練習を繰り返すことで、文章に書かれた情報→立体のイメージという変換ができるようになります。
立体図形が苦手な子ほど、「頭の中で考えなさい」と言うだけではなかなか改善しません。
頭の中だけで考えられないのであれば、まずは紙の上に立体を作ってしまえばよいのです。
立体図形の対策② テキストに書き込まず、図をノートに描き写す
私が特におすすめしているのが、テキストの図に直接書き込まず、一度ノートに描き写すことです。
たとえば立方体の切断問題で、「点Aと点Pを結びなさい」という問題があったとします。
テキストの図にそのまま線を引けば、数秒で終わります。
しかし、それでは立体そのものを描く練習にはなりません。
そこで、
・テキストの立方体をノートに描き写す
・頂点の名前を書く
・必要な点を書き込む
・最後に線を引く
という順番で取り組みます。
最初は時間がかかって構いません。
むしろ重要なのは、立体の形を自分で再現しようとする過程です。
「この辺とこの辺は平行だ」「この頂点は奥にある」「ここは見えない辺だから点線にする」ということを考えながら描くことで、立体の構造そのものを理解するようになります。
「きれいな図」を描くことが目的ではありません
ここで保護者の方に注意していただきたいことがあります。
立体の図が上手に描けないからといって、「もっときれいに描きなさい」と指摘しすぎる必要はありません。
目的は絵を上手に描くことではありません。
自分が考えるために使える図を描けるようになることが目的です。
多少ゆがんでいても、
・手前と奥が分かる
・対応する頂点が分かる
・平行な辺が分かる
・必要な長さを書き込める
のであれば、十分に役立つ図です。
立体図形の対策③ 「斜めから見た図」を描く練習をする
立体図形が苦手な子に多いのが、立体を正面からしか捉えられないことです。
そこで、立方体や直方体を斜め上から見た図として描く練習をします。
たとえば直方体なら、いきなり完成形を描こうとせず、
・手前の長方形を描く
・そこから斜め後ろに線を伸ばす
・奥側にも対応する長方形を作る
・対応する頂点同士を結ぶ
というように描きます。
こうすると、単なる長方形ではなく、「手前から奥へ伸びている立体」として捉えやすくなります。
慣れてきたら、「この立方体を反対側から見たらどうなる?」「上から見たらどんな図形になる?」と問いかけてみるのも効果的です。
一つの立体を複数の方向から考えることで、立体を頭の中で動かす感覚が少しずつ身についてきます。
立体図形の対策④ 遠近感を意識して描く
立体を描くときにもう一つ意識したいのが、遠近感です。
立体図形が苦手な子の図を見ると、「どちらが手前で、どちらが奥なのか分からない」ということがあります。
たとえば直方体を描く場合、手前の頂点から奥の頂点へ向かって、同じ方向に斜めの線を伸ばすだけでも、かなり立体らしく見えます。
大切なのは、正確な透視図法を学ぶことではありません。
「この線は奥に向かって伸びている」「こちらの面が手前にある」という意識を持って描くことです。
見えない辺を点線で描くことも大切
さらにおすすめしたいのが、見えない辺を点線で描く練習です。
たとえば立方体を斜め上から見た場合、裏側に隠れて見えない辺があります。
それを点線で描くことで、「見えていないけれど、そこにも辺が存在する」と考えられるようになります。
これは切断問題などを解くときに非常に重要な感覚です。
実物を見ながら描くところから始めてもよい
「そもそも立方体を描くこと自体ができない」という場合は、テキストから始める必要はありません。
身近な物を使ってみましょう。
たとえば、「ティッシュ箱」「お菓子の箱」「サイコロ」などです。
机の上に置いて、斜めから眺めながら描いてみます。
そして、「どの面が見えている?」「奥にも同じような頂点があるよね」「見えない辺はどこにある?」と確認します。
「実物→図」という経験を繰り返してから、「図→頭の中の立体」へと進んでいくと、理解しやすくなります。
「図を描く時間がもったいない」と考えない
中学受験の勉強では時間が限られているため、「そんなことをしている時間があったら問題を解かせたい」と思われるかもしれません。
しかし、立体図形が苦手な状態で問題数だけを増やしても、解説の図を見て解き方を覚えるだけになってしまうことがあります。
これでは、数字や図の向きが少し変わっただけで解けなくなります。
それよりも、最初の段階では問題数を減らしてでも、「1問ごとに自分で図を描いて考える」ことを優先した方がよいでしょう。
自分で図を描けるようになると、問題を見たときに必要な情報を整理する力もついてきます。
結果として、難しい問題に進んだときの理解も速くなります。
立体図形が苦手な子におすすめの練習順序
最初から入試レベルの立体図形を描かせる必要はありません。
次のような順番がおすすめです。
① 実物を斜めから見て描く
まずは箱や積み木を見ながら描きます。
↓
② テキストに載っている立方体・直方体を描き写す
何も見ずに描く必要はありません。最初は真似をするだけで十分です。
↓
③ 辺の長さや頂点の名前を書き込む
図形と問題文の情報を対応させます。
↓
④ 見えない辺を点線で描く
立体の裏側まで意識します。
↓
⑤ 問題文だけを読んで自分で図を描く
最終的には、文章から必要な立体を作れることを目指します。
この順番であれば、「立体を頭の中でイメージしなさい」と突然要求するよりも取り組みやすくなります。
まとめ|立体図形ができないなら「問題を解く前の練習」に戻る
立体図形ができないと、「体積の公式をもう一度覚えさせよう」「もっとたくさん問題を解かせよう」と考えがちです。
しかし、公式以前のところでつまずいている可能性があります。
特に、「そもそも立体を自分で描いた経験が少ない」という子は珍しくありません。
その場合は、
・自分で図を描く
・テキストに直接書き込まず、ノートに図を描き写す
・斜めから見た立体を描く
・手前と奥を意識する
・見えない辺を点線で描く
・実物を見ながら描いてみる
という練習から始めてみてください。
立体図形は、公式を覚えるだけで得意になる単元ではありません。
自分の手を動かして図を描きながら、「この立体はどうなっているのか」を考える経験を積むことが重要です。
立体図形が苦手だからこそ、難しい問題を何問も解くのではなく、まずは一つの立方体・直方体を自分で描けるところから始めてみましょう。
算数の立体図形でお困りの方へ
「公式は覚えているのに立体図形になると解けない」
「図を見ても、どこが手前でどこが奥なのか分かっていない」
「塾の解説を聞けば分かるけれど、自分では解けない」
このような場合、必要なのは単純な問題演習の追加ではなく、どの段階で立体をイメージできなくなっているのかを確認することです。
算数が苦手なお子さんの場合、一つ前、二つ前の段階まで戻って練習することで理解できるようになることがあります。
立体図形を含め、お子さんが算数のどこでつまずいているのか分からないという方は、体験授業・学習相談をご活用ください。
